インタビュー!喜田村洋一さん[3]レペタ事件 前編〜受任のきっかけから最高裁まで

六法ちゃん、初のインタビュー企画。

弁護士の喜田村洋一先生にお話を伺っています。

六法ちゃん
六法ちゃん
今回は、喜田村先生の担当した代表的な憲法事件の一つである「レペタ事件」(最高裁平成元年3月8日大法廷判決・民集43巻2号89頁、判例時報1299号41頁)についてのお話を聞きます。

 

六法ちゃん
六法ちゃん
この事件の判決が出される以前、裁判所の法廷内にある傍聴席で、一般人がメモを取ることは禁じられていましたが、平成元年から、誰でもメモを取ることができるようになりました。

 

六法ちゃん
六法ちゃん
このきっかけとなった裁判が、このレペタ事件です。
六法ちゃん
六法ちゃん
表現の自由を学ぶ際に、法学部等での憲法の授業で必ずと言っていいほど登場します。

[レペタ事件とは?]

アメリカの弁護士であるローレンス・レペタさんは、日本において証券市場の研究をするために来日し、所得税法違反事件の公判を傍聴していました。レペタさんは公判内容をメモしたかったのですが、当時日本の裁判所では裁判傍聴の際にメモを録取することが禁じられていたため、メモを取ることができませんでした。
そこでレペタさんは、レペタさんの経歴やメモを採る目的・必要性等を詳述した「メモをとる許可願」を裁判所に提出しましたが、やはりメモは認められませんでした。
そのため、精神的損害を被ったとして、レペタさんは国家賠償請求訴訟を提訴しました。

一審(東京地判昭和62年2月12日判例時報1222号28頁)、二審(東京高判昭和62年12月25日判例時報1262号30頁)とも請求を棄却したことから、レペタさんは、メモ録取禁止処分が憲法21条1項及び国際自由権規約19条2項、3項、憲法82条1項、14条1項に反するとして上告しました。

最高裁判所は、メモを取ることは権利として認められないとして、上告そのものは棄却したものの、「筆記行為の自由は憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである」と傍論において述べています(反対意見あり。)。

六法ちゃん
六法ちゃん
この有名な事件では、米国人の弁護士のレペタさんが原告となり、法廷内でメモを取る権利の有無が争われましたね。

 

六法ちゃん
六法ちゃん
そもそも、なぜ米国人の弁護士であるローレンス・レペタさんは、日本の裁判でメモを取る必要があったのでしょうか。

レペタさんはアメリカの弁護士であり、当時は国際交流基金の支援を受けて日本の証券市場の勉強をするために来日していました。
喜田村先生
喜田村先生

レペタさんは研究の一環として、当時審理されていた所得税法違反被告事件の詳細を調査するため、裁判を傍聴する必要があったのです。
喜田村先生
喜田村先生

六法ちゃん
六法ちゃん
なるほど。研究のためには細かい情報も重要になってくると思うのですが、その場でメモを取れないと細かい内容は記録し損ねてしまうかもしれませんよね・・・。
六法ちゃん
六法ちゃん
当時メモが取れなかったにもかかわらず、レペタさんはどのように裁判の内容を記録していたのでしょうか。

レペタさんに限ったことではありませんが、法廷内でメモを取ることができないため、法廷で聞いている最中にその場で暗記して、休憩時間中に法廷の外に出て覚えた内容を紙に書き出すということをしなければなりませんでした。
喜田村先生
喜田村先生
その事件ではどの会社の株式を、いつ、何株、いくらで購入した、あるいは売却した等の非常に細かい情報が重要だったため、レペタさんは、メモを取れないことによって、かなりの困難を強いられたそうです。
喜田村先生
喜田村先生

六法ちゃん
六法ちゃん
覚えて、休憩時間に外でメモを取る・・・しかも株式の購入数やその価格まで!
六法ちゃん
六法ちゃん
まるでクイズ番組か何かのゲームのようですね。

六法ちゃん
六法ちゃん
裁判所がメモを禁止するのはなんらかの根拠があってのことだと思うのですが、どのような根拠があると裁判所は考えていたのでしょうか?

裁判所は、主に、裁判で証言をする証人を威迫するおそれがあることを念頭にメモを取ることを禁止していたと思われます。
喜田村先生
喜田村先生
しかし、メモを取れなかったとしても、おそらく証人威迫をする人はするし、しない人はしないでしょう。
喜田村先生
喜田村先生
メモを取ることが証人威迫につながるという根拠に合理性がないのです。
喜田村先生
喜田村先生
また、証人威迫をするような人にはメモを禁止するのではなく、法廷警察権を行使する等して証人を保護すればいいだけです。
喜田村先生
喜田村先生
また、私たちはレペタさんの訴訟を提起する前に、本当にメモの録取拒否が証人威迫の防止を目的としているかどうかという点を確認する観点から、証人威迫になりようがない、検察官の論告、弁護人の弁論、そして裁判所による判決宣告等の、特定の裁判期日について、メモの録取の許可を求めたこともありました。
喜田村先生
喜田村先生
しかし、これについても、裁判所から理由も明らかにされずに拒否されてしまいました。
喜田村先生
喜田村先生
証人威迫のおそれでメモを禁止するのであれば、証人威迫をしようがない部分に関しては、メモの許可が出るはずですよね。
喜田村先生
喜田村先生
これは裁判所が示した証人威迫のおそれという根拠に意味がないことを示すものです。
喜田村先生
喜田村先生

六法ちゃん
六法ちゃん
確かに、怖いお兄さんたちが必死になってメモを取っていたりしたら、かなり異様な雰囲気で怖いですけど、睨みつけられる方が怖いですよね。
六法ちゃん
六法ちゃん
法廷メモの禁止は、憲法上の権利として保障されている私たち国民の知る権利を制限するようにも思えるのですが・・・?

そうですよね。
喜田村先生
喜田村先生
裁判所のロジックとしては、当時から、その裁判所の司法記者クラブに所属する記者には、メモを取ることが許されていましたので、この司法記者を通じて報道されることによって、国民の知る権利は充足すると考えていたのでしょう。
喜田村先生
喜田村先生
しかし、司法記者がすべての事件を傍聴しているわけではありませんし、詳細な情報を報道してくれるわけでもありません。ですから、司法記者を通じた報道だけでは不十分なことが明らかです。
喜田村先生
喜田村先生
知る権利が最終的に帰属する主体である市民自身が、自分でメモを取って情報を吟味することができないというのはおかしな話です。
喜田村先生
喜田村先生

・・・(納得してコメントができない)。
六法ちゃん
六法ちゃん

六法ちゃん
六法ちゃん
しかし、いかに根拠薄弱であるような規定であっても、裁判所を相手取って最高裁まで争うというのは、六法ちゃんから見るととても勇気がいることだと思います。
六法ちゃん
六法ちゃん
喜田村先生は訴訟の結論はどうなると思っていましたか。

レペタさんはこの裁判にとって最良の原告だったと思います。
喜田村先生
喜田村先生
まず、レペタさんは国際交流基金の支援を受け日本の証券取引市場を勉強するために来日し、所得税法事件の調査のために裁判を傍聴していた人であり、メモを取る必要性は十分に認められました。
喜田村先生
喜田村先生
そして、レペタさんは被告人と何らの面識も利害関係もない外国人の弁護士、かつ学者であるため、証人を威迫するおそれ等は全くなかったと言えました。
喜田村先生
喜田村先生
さらに、このころ日弁連も裁判におけるメモの録取の解禁を求めるシンポジウム等を開催していて、裁判におけるメモ録取を解禁する機運は高まっていたように思います。
喜田村先生
喜田村先生

六法ちゃん
六法ちゃん
なるほど。
六法ちゃん
六法ちゃん
さあ、結論はどうなるか・・・緊張の最高裁判決は次回の記事でお伝えします。

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