年賀状が届かない!?器物損壊罪との関係

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お正月が終わってようやく日常生活が戻ってきましたが、みなさんはいかがお過ごしですか?

さて、お正月といえば、六法ちゃんも昨年末に年賀状についての記事を投稿しました。たくさんの反応をいただき、ありがとうございました!

記事の中で、年賀状を配達するお仕事の人が年賀はがきを配達中に勝手に捨てたり隠したりした場合、器物損壊罪(刑法261条)に該当する可能性があるとご紹介しました。

これについて、
「なぜ郵便物を損壊してるのに私用文書等毀棄罪(刑法259条)じゃなくて、器物損壊罪(261条)なの?」
「手紙(年賀状)って器物なの?」
というような法律の質問を複数の方からいただきました。
そこで、今日は、六法ちゃんがこの問題についてもう少し詳しく解説してみたいと思います。

まず、刑法は第四十章(258条〜264条)に「毀棄及び隠匿の罪」を規定しています。

これを見ると、まずは258条で「公用文書等毀棄」の罪として「公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。」と規定しています。
年賀状は「公務所の用に供する文書」ではありませんから、年賀状を捨てたり隠したりしてもこの罪には該当しません。

つぎに、259条は「私用文書等毀棄」の罪として、「権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、五年以下の懲役に処する。」と規定しています。
そのため、これに該当するためには年賀状が「権利または義務に関する他人の文書」にあたらないといけないのです。

では、「権利または義務に関する他人の文書」って一体どんな文書でしょうか。
権利又は義務の存否、得喪、変更を証明するための文書だと考えられています。(山口厚『刑法』(有斐閣, 2009年)p.355)
そのため、典型的には、借用書や契約書、示談書、遺産分割協議書、念書、覚書、辞令書、債権譲渡通知書、領収証などがこれにあたると考えられています。

年賀状は通常は新年の挨拶をするために送るものですから、年賀状の中にこれらの事項を書くということはまず考えられないと言えるでしょう。
したがって、年賀状は「権利または義務に関する他人の文書」に通常はあたらないといえそうです。

以上から、年賀状は「公用文書」にも「私用文書」にもあたらず、年賀状を捨てたり隠したりしても文書を毀棄する罪は成立しないことになります。

しかし、公務所の用に供しない私用文書で、他人の権利義務に関するものでない文書でも重要なものはたくさんありますね。
年賀状もそのようなものの一つでしょう。
それなのにそのような文書を捨てたり隠したりしても刑法上何の罪にも問えないとなると不都合が生じそうです。

そこで、刑法は「器物損壊等」の罪として、第261条で「前三条に規定するもの(六法ちゃん注:公用文書、私用文書、建造物)のほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」と規定することで、年賀状のように、私用文書で他人の権利義務に関するものでないものも保護の対象にしていると考えられているのです。

いかがでしょうか。年賀状が「器物」なのだと言われるとなんだか変な感じもしますが、刑法上はそのように考えられるということなんですね。

今日は久しぶりに刑法のちょっと細かい話をしてみた六法ちゃんでした!

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