出生前診断における医師の過失と損害賠償責任 第4回 「妊娠前」or「妊娠後」??

今回の特集では、このような事例をもとに話を進めています。
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A子さんが妊娠中に、お腹の赤ちゃんについて障害はないかを検査したいと思い、出生前診断を行いました。
医師による診断結果は、赤ちゃんに障害はないというものでしたが、実際に生まれた赤ちゃんは障害を持っていました。

診断の際、この医師になんらかの落ち度があったと考えられた場合、A子さんや生まれた赤ちゃんは、医師や病院に対して損害賠償請求を行うことができるのでしょうか。

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前回、裁判所の判断は、医師の過失の時期が「妊娠前」か「妊娠後」かによって、異なっているという説明をしました。

今回は、医師の診断が妊娠後である場合に子どもの出生を回避するために行われることがある人工妊娠中絶の法的問題とあわせて、説明を続けます。

これまでに説明した通り、出生前診断は、事実上、人工妊娠中絶と密接な関係があります。

前回、妊娠中の出生前診断で胎児に障害があることがわかったことで、子の出生を回避する手段として「人工妊娠中絶」が挙げられましたが、そもそも、胎児に障害があることを理由として人工妊娠中絶を行うことは法的に許されているのでしょうか?

六法ちゃんが調べたところ、母体保護法では、母体の身体的理由や経済的理由による中絶は認められています。
しかし、胎児の異常を理由とする中絶を認める条項(いわゆる胎児条項)はなく、障害のある子の出生を理由とする中絶は認められていません。
そして、母体保護法によらない堕胎は、刑法により禁じられています。

法律上、子に障害があるという理由での中絶は禁止されているんですね。

そう考えると、子の障害を理由とする中絶が法的に認められていない以上、医師の過失がなく障害を知ることができたとしても中絶で子の出生を回避することはできないことになるので、損害賠償を求めることは筋違いと考えることもできます。
それに加え、そもそも子が障害を持って生まれてくることを「損害」ということはできるのでしょうか?裁判所はこれを否定しています。

このような理由から、「妊娠後」の事例では、親の経済的負担についての請求が否定されています。

いっぽうで、裁判所は、避妊という「正当な方法」で障害のある子の出生を回避することは自由であるとして、「妊娠前」の事例では、経済的負担についての請求も認めたのです。

次回は、人工妊娠中絶に関連する法規制と運用の実態について、もう少し考えてみましょう。

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