六法ちゃん、初のインタビュー企画。
弁護士の喜田村洋一先生にお話を伺っています。
六法ちゃん
喜田村先生の担当した代表的な憲法事件の一つである「レペタ事件」(最高裁平成元年3月8日大法廷判決・民集43巻2号89頁、判例時報1299号41頁)についてお話を聞きしています。
六法ちゃん
レペタ事件は、法律を学んだことがある人なら誰でもその名を知っているほど有名な憲法判例のひとつです。
六法ちゃん
事件についてのお話は前回伺っているので、こちらからご覧くださいね!
六法ちゃん
さて、長い戦いの末、とうとう最高裁判所で「メモを録取する権利は十分に尊重されるべき」だとの判断が出されましたね!
六法ちゃん
これ以降、傍聴人は裁判においてメモを取ることが可能になりましたね。
六法ちゃん
レペタさんが裁判に勝ったことで、国民全体がメモを取れるようになったんですよね!すごい!
裁判後、よく「勝ててよかったね」と言われたんですが、実際には第一審から最高裁まで、判決主文ではすべて敗訴しています。
喜田村先生
実際に判決をよく読んでみると、いわゆる傍論において、裁判におけるメモの録取の可否について判断がされているだけなのです。
喜田村先生
民事裁判ですので、判決言渡しのときは、判決理由の読み上げは当然なく、裁判所が傍論でメモの録取の可否について論じているか否かは把握することができませんでした。
喜田村先生
ですので、「(レペタさんの)上告を棄却する」という主文だけを聞いたレペタさんはかなり悔しがっていました・・・。
喜田村先生
六法ちゃん
えーーーー!!!!
六法ちゃん
裁判としてはレペタさんの敗訴だったということですか。
六法ちゃん
判決文は最後まで読まないとわからないものですね。
六法ちゃん
教科書だけ読んでいた六法ちゃんは、てっきり勝訴だったと思っていました。
六法ちゃん
裁判所は、判決の結論とは直接関係のない傍論で、「メモが取れる」という大切なことを述べたのですね。
そうです。判決書は最後まで読むと勉強になりますよ。
喜田村先生
よく、裁判所は審判の対象となる訴訟の中心である「訴訟物」に関する判断だけをするべきだと言われています。
喜田村先生
今回の事件でいえば、訴訟物である国家賠償請求(レペタさんがメモを取れなかったことに対する損害賠償請求)が棄却されるのであれば、それと別に(メモを取る権利についての)憲法判断をする必要はないはずです。
喜田村先生
しかし、レペタ事件においては、裁判所は結論を導くためには必要のない憲法判断に踏み込んで、メモを取る権利を認めていますから、それは嘘ですよね。
喜田村先生
レペタ事件における憲法判断は、裁判所からのメッセージだと考えるべきです。
喜田村先生
六法ちゃん
うわ〜!
六法ちゃん
レペタさんの裁判上の請求そのものは認められなかったけれど、裁判所は自ら自分たちのルールを変えて、一般人にメモを取る権利を認めたんですね。
六法ちゃん
レペタさんとしては、それからメモが取れるようになったわけですから、実質的に勝訴したような気持ちだったでしょう!
六法ちゃん
すごい!
六法ちゃん
最高裁で判決が下された後、裁判所の運用はすぐに変更されたのでしょうか?
判決が出たのは午前中でしたが、その日の午後からは、日本中のすべての裁判所でメモの録取が認められるようになりました。
喜田村先生
これは後から聞いた話なので、本当かどうか分からないですが、この事件判決が出る前に最高裁から全国の各裁判所に対して、何の理由も言わずに、茶色のテープを準備しておくよう指示があったそうです。
喜田村先生
そしてレペタ事件の判決の直後にも、最高裁から各裁判所に対して連絡があり、この茶色のテープを使って、今すぐに法廷に掲げられている茶色地の掲示板上の「メモ禁止」という文言を覆って隠すように指示がされたようです。
喜田村先生
単に茶色いテープを用意しろと言われた裁判所の職員の方々は、レペタ事件やその結論は知らなかったでしょうから、最高裁判所の意図が分からなかったでしょうね。
喜田村先生
六法ちゃん
裁判所は、判決を言い渡す前から、メモを取る権利を認める準備万端だったのですね(笑)。
六法ちゃん
レペタ事件が、実質勝訴といえるような内容に終わった一番の理由はどこにあると思いますか?
この事件は原告のおかげで勝てたようなものだと思っています。
喜田村先生
先にお話しした通り、レペタさんは、アメリカの弁護士であり、国際交流基金の支援を受けて日本の証券市場の勉強をするために来日し、研究の一環としての所得税法違反事件の調査のために裁判の内容を記録する必要があり、かつ、証人威迫など全く想定できない人物だったということ、これに尽きると思います。
喜田村先生
また、それ以外にも、憲法学者(日本の憲法学者だけでなく、米国の憲法学者にも意見書を書いていただきました)や、日弁連の助力も、実質勝訴にとって欠かせないものでした。
喜田村先生
憲法訴訟では、代理人が理論面を準備し、完璧な訴訟追行をするということももちろん大切な大前提ではありますが、勝つためにはそれだけでは足りません。
喜田村先生
この事件でいえば、原告の性質に恵まれましたが、他にも担当する裁判官が誰か、また裁判時点の時代背景等、自分の力だけではどうにもならない運の要素があることは確かです。
喜田村先生
六法ちゃん
なるほど。弁護士が有能であれば必ず裁判に勝てる、というわけではないんですね。
六法ちゃん
ありがとうございました!
六法ちゃん
次回は別の、あの有名な事件について質問します。